コンジョイント分析による製品LCAデータの経済評価

A Conjoint Analysis Study using the Data from Life Cycle Assessment

 

鷲田豊明*      國部克彦**      ○栗山浩一*** 

Toyoaki WASHIDA, Katsuhiko KOKUBU, Koichi KURIYAMA

 

1.はじめに

環境保全型商品の開発と普及に向けて、製品の製造から廃棄までのすべての段階での環境に与える影響を評価するライフサイクル・アセスメント(LCA)が注目されている。本研究では、LCAによって得られる定量的データに対して、社会がどのような評価を与えるかを分析することで、LCAインベントリー分析と社会経済評価の接合を試みる。具体的には、多属性の製品を属性単位で評価できるコンジョイント分析を用いて、エアコンを対象に実証研究を行い、環境属性のグリーン価格プレミアムを評価する。

 

2.LCA情報とコンジョイント分析

マーケティング・リサーチの分野では、新製品の潜在的需要を調べる手法としてコンジョイント分析が使われている。コンジョイント分析は、アンケートを用いて多属性製品の選好を属性単位で評価する手法であり、1990年代に入ってから環境経済学の分野でも環境属性を評価できる手法として注目を集めている。コンジョイント分析は、多数の属性で構成されるプロファイルと呼ばれるカードを回答者に提示し、プロファイルに対する選好をたずねることで、属性単位で選好を評価する。製品属性は、性能や価格などの通常の商品属性に加えて、温暖化ガス負荷や大気汚染負荷などのLCA情報を入れることができる。このため、コンジョイント分析を用いることでLCA情報が消費者の製品選択行動に及ぼす影響を分析し、環境保全型商品のグリーン価格プレミアムを評価することが可能となる。

 

3.実証研究:家庭用エアコンの評価

ここでは、家庭用エアコンを対象にコンジョイント分析による実証研究を行う。家庭用エアコンの通常性能として冷暖房パワー、消費電力、価格を採用し、それ以外の環境属性としてリサイクル率、温暖化ガス排出、大気汚染物質排出を用いた。このうち、温暖化ガス排出と大気汚染物質排出はライフサイクル・インベントリー分析によって得られたLCA情報である。ここで用いた属性と水準は表1のとおりである。

これらの属性を組み合わせて作成した製品プロファイルを回答者に提示するが、ここではACAとランキングの二種類の質問形式を採用した。ACAはコンピュータ・インタビューを用いた調査方法で、属性単位の重要性、ペアワイズ評定、完全プロファイル評定の3つの質問形式を組み合わせて評価を行う。図1はACAの最も特徴的なペアワイズ評定の質問例を示したものである。回答者には27種類の質問が示された。一方、ランキン

表1 コンジョイント分析で用いたエアコン属性一覧

属性

水準1

水準2

水準3

水準4

冷暖房パワー

6畳用

8畳用

10畳用

12畳用

電気代

2000円

3000円

4000円

5000円

リサイクル率

50%

60%

75%

90%

温暖化ガス排出

0.14トン

(標準の60%)

0.18トン

(標準の80%)

0.23トン

(標準と同じ)

0.28トン

(標準の120%)

大気汚染物質排出

60立方メートル

(標準の60%)

80立方メートル

(標準の80%)

100立方メートル

(標準と同じ)

120立方メートル

(標準の120%)

価格

10万円

15万円

20万円

25万円

図1 ペアワイズ評定の質問例

 

図2 ランキングの質問例

 
グは複数の製品プロファイルを回答者に提示して、好ましい順番にプロファイルを並び替えてもらう。図2はランキングの質問例である。ランキングは一人の回答者に10種類の質問が行われた。ACAの調査は1999年1月に東京銀座で、ランキングの調査は2月に東京渋谷で行われ、どちらも102サンプルが回収された。調査方法は会場集合型、サンプル抽出はモールトラッピングである。

 

3.結果

 ACAデータについては順序プロビットおよびトービットの結合推定が行われ、ランキングデータについてはランク順序ロジットによる推定が行われた。いずれもすべての変数が1%水準で有意であった。表2は推定された限界支払意志額を示している。ACAとランキングの結果は接近しており、温暖化負荷改善は1kgあたり900円前後、大気汚染負荷改善は1m3あたり2000円前後であった。この結果をもとに温暖化負荷の低い商品が販売されたときの市場占有率をシミュレートしたところ、温暖化負荷の低い商品の価格が24万円以下であれば価格20万円の標準的商品よりも高いシェアが得られることが判明した。

 


表2 推定された限界支払意志額



*  神戸大学経済学部 Department of Economics, Kobe University

**  神戸大学経営学部 School of Business Administration, Kobe University

***  早稲田大学政治経済学部 School of Political Science and Economics, Waseda University